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芝生とプール [80年代クロニクルズ]

村上春樹の短篇小説「午後の最後の芝生」は

「中国行きのスロウボート」という短篇集の中に納められた一篇で

主人公のアルバイトである、夏の午後の芝刈りについて書かれています。

炎天下の芝刈り、光の眩しさ、草の匂い、そんなことが描かれた後

アルバイト先の女主人との会話の中で、自分の過去を回想していくという物語です。

80年代の村上春樹作品の中では、とても印象深い作品でした。

中国行きのスロウボート.png

デヴィッド・ホックニーのプールをモチーフにした一連の水彩画と写真集は

シンプルな技法の中に水しぶきや水面の複雑な揺れが表現されていて

穏やかな午後の陽光を感じさせてくれます。

夏の日差しの中で、プールに体を浮かべている心地よさが伝わってくるような作品でした。

「ビッガー・スプラッシュ」
カメラワークス.png

「デヴィッド・ホックニー・カメラワークス」
a0155815_1739780.jpg

芝生とプール。

80年代の半ば、私は芝生とプ―ルのイメージに強く惹かれていました。

私は20代後半でしたが、CMディレクターとしての自分の能力や将来に不安を感じていて

このまま仕事を続けるべきか、思い切って転職したほうがいいのか悩んでいました。

芝生とプールへの憧れは、そういう状況からの逃避願望だったのかもしれません。

その頃、プールクリーナーという職業があることを知りました。

ハワイの高級住宅地のプ―ルを借りて撮影をしている時

柄のついた網を使って、プールの中のゴミや葉っぱをすくっているスタッフがいました。

彼は、プールクリーナーと呼ばれるプール専門の掃除人で

プールのゴミを取り除いたり、水を抜いたプールの底をブラシで磨いたりするのが主な仕事です。

12-pool.jpg

彼の仕事ぶりは実に丁寧で、黙々とした作業を楽しんでいるようにも見えました。

ランチタイムには、ピックアップトラックに乗った奥さんがサンドイッチを届けてくれます。

木陰でランチを済ませると、彼らは次の依頼先のプールへと向かいました。

なんと理想的な仕事なのだろう。

プールクリーナー。

日本では考えられない仕事だけど、転職するならこういう仕事もありだな、と思いました。

プールクリーナーは、村上春樹とデヴィッド・ホックニーの二つの世界観を

一緒に体現できる仕事ではないでしょうか。

南佳孝「プールサイド」

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