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ポール・ポッツのこと [CM]

ポール・アップ.jpg

ポール・ポッツは「ブリテンズ・ゴット・タレント」というオーディション番組で

「誰も寝てはならぬ」を歌い、審査員全員と会場の観客を熱狂させたオペラ歌手です。

ヨレヨレの上着に安物のネクタイで、オペラを歌いあげる姿がyoutubeを通じて配信され

世界中の人々に感銘を与えました。

元携帯電話のセールスマンが一夜にして世界的なオペラ歌手になるというエピソードも、

シンデレラ・ストーリーとして話題になりました。

2008年、僕たちCMの制作者も、ポール・ポッツに注目していました。

当時、龍角散の、のど薬の広告を企画していたこともあり、

「神様がくれたのどが、僕の人生を変えた」

というキャッチ・フレーズで、クライアントにポール・ポッツをプレゼンしました。

プレゼンは通ったのですが、CMの表現をどうするかでかなり悩みました。

どう作りこんでも、youtubeのドキュメンタリー映像には勝てるわけがないのです。

孤独な少年時代や不遇の青春時代を描いても、嘘っぽくなるだけ。

いろいろ考えた末「誰も寝てはならぬ」を歌う姿に、彼のプロフィールを字幕で映し出す

シンプルな構成でいくことにしました。

来日したポールと打ち合わせをするため、僕たちは六本木のリッツカールトンに出向きました。

ホテルのエレベータに乗り込むと、偶然にもポールが乗り合わせていたのですが、

簡単な挨拶をして、打ち合わせ用のスイートで彼を待つことにしました。

しかし、ポールはなかなか現れませんでした。

2時間後、別室で一緒にいるはずのスタイリストに電話を入れると、

彼は極度の人見知りらしく、僕たちのいる部屋に行くのをためらっているとのことでした。

その日、僕たちは彼に会うのを諦め、不安を抱きながら数日後の撮影を迎えました。

予想に反し、ポールは時間通りにスタジオに来ていました。

立ち位置を決めるため、彼にステージに上がってもらうと、

たちまち落ち着きのない様子を見せ、すぐにでもステージを降りて帰ってしまいそうでした。

僕は録音部に指示し「誰も寝てはならぬ」のイントロをスピーカーから流してもらいました。

すると、それまでとは彼の様子が一変し、リハーサルでもないのに歌いはじめたのです。

指示を出すまでもなく、2台のキャメラは回りだしていました。

収録した映像を、モニターに出して見せると、

彼は、もういちど歌いたいと言い出し、今度は積極的にステージに上がっていきます。

結局、2テーク撮ってOKを出しました。

龍角散.jpg

ポール・ポッツは、自信の無さからくる劣等コンプレックスの塊のような人物で、

いつも不安と緊張の中で生きているように見えました。

しかし、ひとたび音楽が聴こえてくると、彼の性格は一変します。

別人のように自信に満ち溢れ、その声で人の心をつかみ、観客を魅了してしまうのです。

不遇な人生の中でも歌うことを諦めず、自分を信じて努力してきたのでしょう。

ある意味、彼自身のコンプレックスが才能を伸ばしたとも言えます。

ポール・ポッツのデビューCDのタイトルは「One Chance」

ワン・チャンス.jpg

文字通り、彼はワンチャンスで、人生を劇的に変えてしまったのです。


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