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記念写真 [CM]

CMのような短い作品でも、最後のカットを撮り終えた直後というのは、

なんとも言えない不安感に襲われる。

これで撮影を終了していいのだろうか…

他にもっといいやり方があったかもしれない…

誰にも言えない不安=モンスターが、自分の中で大きくなっていく。

そうしているうちに、撮影助手がムーヴィー・キャメラのボディからレンズを外し、

フィルムゲートをチェックする。

フィルムに、ゴミや傷がついていないかを確認し、異常がなければ全カット撮影終了となる。

ロケーションの場合は、フィルムゲートをチェックした撮影助手が「Wra~p!」と叫ぶ。

「Wrap」は、「機材を梱包しろ」という意味だが、転じて、「撤収」という意味で使われる。

撮影助手は、仕事から解放された喜びを「Wra~p!」の叫び声に込めるのである。

ある時、アメリカ人の撮影助手は、「Wra~p!」の後に「Everybody Go Ho~me!」と続けた。

その声を聞いた途端に、現場のスタッフは仕事を成し遂げた達成感で晴々とした顔になり、

僕の中のモンスターも、いつしか小さくなっている。

どこからともなく拍手が起こり、近くにいる者同士が握手を交わし、肩を抱き合う。

言葉を交わさなくても、相手の顔を見れば同じ気持ちであることが判る。

長いロケーションで困難の多い撮影の時ほど、この喜びは大きなものとなる。

そして誰かがスチールキャメラを取り出して、記念写真を撮ろうと言い出す。

この写真も、そんなときの一枚です。

1992.jpg

モロッコのマラケシュ。

サックスプレーヤーのポール・ウィンターを、あるCMに起用して撮影した時のものです。

ポール・ウィンターは、翌年、グラミーのニューエイジアルバム賞を受賞した。

日本人、モロッコ人、フランス人のスタッフが入り混じっているが、

仕事を終えたあとの表情は皆同じである。

この写真は、キャメラマンの英興(HIDEOKI)さんが8×10で撮影してくれた。

記念写真は、写真の王道だと思う。

全員がキャメラに正対し、レンズを見つめる。

パンフォーカスが基本で、そこに撮り手の作為や、ごまかしは効かない。

だから、ありのままのスッピン写真になるところが僕は好きだ。
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