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カンヌ [CM]

カンヌ映画祭.jpg

5月中旬から始まった「カンヌ映画祭」は閉幕しましたが

6月下旬からは「カンヌ国際広告祭」が開幕します。

カンヌライオンズ.jpg

「カンヌ国際広告祭ーカンヌライオンズ」は、世界最大のテレビCMコンクールです。

世界中からエントリーされた数百本のCMが会場で上映され

独自性や創造性に富んだ作品に対し、ブロンズ、シルバー、ゴールドの賞が与えられます。

そして、それらの作品の中から絶対的評価の高い作品に、グランプリが決定します。

初めてカンヌを訪れたのは1984年で

社員ディレクターとして、どうにか仕事が回りはじめた頃でした。

当時の私には、CMコンクールにエントリーするような作品は何もありませんでしたが

会社が、研修として私をカンヌに行かせてくれたのです。

広告祭の期間中、カンヌには世界中のCM関係者が集まってきます。

連日、上映会場のパレ・デ・フェスティバルに通い、私もCM漬けの日々を過ごしました。

観客の反応は、ダイレクトに会場に伝わります。

独自性を持った視点で作られたCMには拍手が沸き起こり

広告的な訴求力を持たない作品には、床を鳴らしてブーイングが起こります。

ある時「サントリーローヤル」という日本のウィスキーのCMが上映されました。

そのCMは、ランボーやガウディをテーマに独特の映像で作られた作品でした。



私は、この作品が好きだったので、観客がどんな反応を示すのか、とても興味があったのですが

上映後に大ブーイングが起こってしまったのです。

映像のイメージが、ウイスキーという商品に着地していないというのが不評の理由でした。

商品に対して明確な訴求力のない広告に、観客はシビアな評価を下します。

こういうイメージ広告は日本でしか通用しないのだということを、私は思い知りました。

たとえば、酒類のカテゴリーで絶賛されたのは、こんなCMでした。

舞台はロンドンの紳士専用のクラブ。

年老いた給仕が「ギネスビール」の小瓶をトレイにのせて客のもとに運んでいる。

しかし、トレイをもつ老給仕の手元が震えているので、ビールがカタカタと揺れてしまう。

他の客たちは、老給仕がビールをこぼしてしまうのではないかと心配そうに見つめる。

トレイの上で揺れるビールと、心配そうに見つめる客たちのアップが交互にカットバックされる。

客のもとにたどりついた老給仕は、何事もなかったようにテーブルの上にギネスビールを置く。

ハラハラしながらその様子を見ていた客たちから安堵のため息が漏れる。

このCMには、ナレーションも音楽もないが、見終わった瞬間、無性にビールが飲みたくなる。

ビールのボトルがカタカタと揺れる音を、シズル感としてとらえた表現が実に見事だった。

街のカフェやレストランに入ると、上映作品を論評しあう関係者たちの声が聞こえてきます。

言葉はわからないけど、彼らを見ていると、誰がディレクターで、誰がプロデューサーなのかが

なんとなくわかってきます。

人種は違うけど、同業者同志には共通する匂いというのがあるものです。

顔なじみになった同世代のヨーロッパのCMディレクターたちと

お互いにたどたどしい英語で、上映作品を論じあったりするのはとても刺激的でした。

広告祭が終わるころには、CMに対する私の考え方が少しずつ変わっていくのを感じました。

その年のグランプリCMは、映画「ブレードランナー」のリドリー・スコットが手掛けた

「アップルコンピュータ」でした。



授賞式の夜は、カジノ付きホテルのプールサイドでパーティが開かれます。

プールサイドとは言え、短パンとポロシャツで参加するわけにはいかないので

急遽、安物の上着とネクタイを買って、そのパーティに出席しました。

プールサイドを歩いていると、初めての場所なのにどこか見覚えがあることに気付きました。

そこは、映画「地下室のメロディ」のラストシーンに出てくるプールサイドだったのです。

プールに沈めたバッグから札束が浮き上がり、アラン・ドロンとジャン・ギャバンの完全犯罪が

失敗に終わるあのシーンです。

地下室のメロディ.jpg

あれから、カンヌにはロケ等で何度か訪れていますが

会場のパレ・デ・フェスティバルの前を通るたび、野心に満ちた若き日の自分を思い出します。

2015年、今年はどんなCMがグランプリを獲るのでしょうか。

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