専門用語 [CM]
かつて仕事で作った古い企画コンテを整理していたら、
撮影現場で使っていた専門用語のことを、ふと思い出しました。
専門用語はというのは外部の人にはわかりにくいけど、他の言葉を使うより理解が早く、
正確に伝わるというのが利点だと思います。
撮影の現場では独特の専門用語が飛び交います。
代表的な用語に「上手」「下手」というのがあります。
本来は舞台用語で、「上手」は客席から見て右側、「下手」は客席から見て左側のことを指します。
撮影現場では、客席の位置をキャメラの位置に置き換えて使っています。
つまりキャメラから見て右が「上手」、左が「下手」となります。
撮影現場には、撮影部、照明部、美術部、特機部、制作部、ヘアメイクやスタイリスト、
時には何十人ものエキストラなど、大勢のスタッフや出演者が動いています。
そういう込み入った空間で、左右を区別することはとても紛らわしいので、
キャメラから見て右を「上手」、左を「下手」という言い方で統一しています。
僕は経験の浅いころ、専門用語を知らないで恥をかいた経験があります。
ある撮影で、僕はスタジオの美術セットにトロピカルフルーツを並べていました。
「八百屋にしてくれ!」キャメラマンが、ADの僕に指示しました。
「野菜は用意していません…」と僕が答えると、現場でどっと笑い声が起こったのです。
何故笑われているのか分かりませんでした。
「八百屋」という専門用語は、八百屋の店頭ディスプレイのように、
商品を見やすくするために箱の後ろを上げて角度をつけることだったのです。
もうひとつ笑い話。
数十人のエキストラを使ってリハーサルしていた時、
モニターをのぞいたら画面の右側のエキストラの動きが重なっていました。
「上手の3人、わらってください」と僕が言うと、
その3人のエキストラは、突然ニヤニヤしだしました。
この場合「わらう」というのは「笑う」ことではなく、画面からどいてくださいという意味です。
「わらう」は、取っ払うが変化したもので、
せっかく画面に入ってくれたが、悪く思わず、笑ってどいてください、ということなんです。
「セッシュウ」という専門用語は、ハリウッドから日本に伝わった用語です。
かつてハリウッドに、アカデミー助演男優賞にノミネートされたこともある
早川雪舟という背の低い日本人俳優がいました。
彼が他の俳優と同じ画面に入るときは、箱馬などの踏み台に乗って、
自分の身長を高く見せていたそうです。
このことから、身長の高低差をなくすため、出演者や物を台に載せて撮影することを
「セッシュウ」すると言うようになりました。
僕もロスのスタジオで「セッシュウ」と言ったら、
アメリカ人のスタッフに、ふつうに通じた経験があります。
このように、映像を見やすくするための工夫を指す専門用語は、他にもたくさんあります。