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夏服を着た女たち [文学]

現代アメリカ文学の翻訳家の常盤新平が亡くなりました。

常盤新平.jpg

大工の棟梁のような顔をしているけど、

都会的で洗練された文体の翻訳が氏の持ち味でした。

常盤新平の翻訳したアーウィン・ショーの短編小説の中に、

「夏服を着た女たち / The Girls in Their Summer Dresses」がある。

夏服を着た女たち.jpg

学生時代に読んで以来、繰り返しページをめくる本の一冊です。

よく晴れた日曜日、若い夫婦がゆっくりと朝食をとり、

とりとめのない会話をしながら五番街を南に下ります。

歩きながら若い夫は、つい、夏服を着た若い女のほうに目をやってしまう。

そのことで、理性的な妻に責められる。

夫は、肌を陽にさらした女たちを、つい見てしまうことを正直に告白する。

妻に対する愛情とは別に、男はそういうことを、ついやってしまうものだ。

そのことでふたりの間にささやかな諍いが生まれるが、

ラストはパッと霧が晴れたような読後感で終わる。

アーウィン・ショーの作品は、1930年代のニューヨークを舞台にした作品が多く、

機微のある会話と都市生活者の描写が、なんともいえず好きでした。

僕にとってのニューヨークのイメージは、この小説に描かれたものと今も変わっていない。

ショーと同時代の作家にはサリンジャーやカポーティがいる。

彼らほど注目を浴びることはなかったが、

ショーは、みずみずしい生の一瞬や、ほろ苦い日々の思いを紡ぎ、

味わい深い物語を書く作家だった。

常盤新平の訳したアーウィン・ショーを、久しぶりに読んでみようと思う。
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10月はたそがれの国 [文学]

旅行の計画を立てていた。

もろもろの手配を済ませた時、家内が足の指を骨折した。

庭の暗がりで敷石につまづいたのだ。

完治には3週間ぐらいかかるらしい。

旅行はすべてキャンセル。

古い本を持って少し遠くにある珈琲店に行く。

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ここは、かつて映画館があった場所で、店内は広く中庭に面したテラス席がある。

映画館だった頃の面影はないが、なんとなく懐かしい。

少し肌寒いが、テラス席で珈琲を注文し、

レイ・ブラッドベリの短編集「10月はたそがれの国」を読む。

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読み進むうちに、正体不明の何かが、僕を「たそがれの国」へと誘い込んでくる。

ブラッドベリ作品特有の不思議な感覚だ。

この危うい感じが、どこか快感であり、奇妙なことに充実感さえ感じる。

ためらうこともなく、僕はその抜け穴へ入っていく…

陽の光は足早に幕を下ろし、重たい宵の気配が座りこんできた。

惑いの中で、いつしか僕は「たそれがの国」の住人になっていた。


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