夏服を着た女たち [文学]
現代アメリカ文学の翻訳家の常盤新平が亡くなりました。
大工の棟梁のような顔をしているけど、
都会的で洗練された文体の翻訳が氏の持ち味でした。
常盤新平の翻訳したアーウィン・ショーの短編小説の中に、
「夏服を着た女たち / The Girls in Their Summer Dresses」がある。
学生時代に読んで以来、繰り返しページをめくる本の一冊です。
よく晴れた日曜日、若い夫婦がゆっくりと朝食をとり、
とりとめのない会話をしながら五番街を南に下ります。
歩きながら若い夫は、つい、夏服を着た若い女のほうに目をやってしまう。
そのことで、理性的な妻に責められる。
夫は、肌を陽にさらした女たちを、つい見てしまうことを正直に告白する。
妻に対する愛情とは別に、男はそういうことを、ついやってしまうものだ。
そのことでふたりの間にささやかな諍いが生まれるが、
ラストはパッと霧が晴れたような読後感で終わる。
アーウィン・ショーの作品は、1930年代のニューヨークを舞台にした作品が多く、
機微のある会話と都市生活者の描写が、なんともいえず好きでした。
僕にとってのニューヨークのイメージは、この小説に描かれたものと今も変わっていない。
ショーと同時代の作家にはサリンジャーやカポーティがいる。
彼らほど注目を浴びることはなかったが、
ショーは、みずみずしい生の一瞬や、ほろ苦い日々の思いを紡ぎ、
味わい深い物語を書く作家だった。
常盤新平の訳したアーウィン・ショーを、久しぶりに読んでみようと思う。
大工の棟梁のような顔をしているけど、
都会的で洗練された文体の翻訳が氏の持ち味でした。
常盤新平の翻訳したアーウィン・ショーの短編小説の中に、
「夏服を着た女たち / The Girls in Their Summer Dresses」がある。
学生時代に読んで以来、繰り返しページをめくる本の一冊です。
よく晴れた日曜日、若い夫婦がゆっくりと朝食をとり、
とりとめのない会話をしながら五番街を南に下ります。
歩きながら若い夫は、つい、夏服を着た若い女のほうに目をやってしまう。
そのことで、理性的な妻に責められる。
夫は、肌を陽にさらした女たちを、つい見てしまうことを正直に告白する。
妻に対する愛情とは別に、男はそういうことを、ついやってしまうものだ。
そのことでふたりの間にささやかな諍いが生まれるが、
ラストはパッと霧が晴れたような読後感で終わる。
アーウィン・ショーの作品は、1930年代のニューヨークを舞台にした作品が多く、
機微のある会話と都市生活者の描写が、なんともいえず好きでした。
僕にとってのニューヨークのイメージは、この小説に描かれたものと今も変わっていない。
ショーと同時代の作家にはサリンジャーやカポーティがいる。
彼らほど注目を浴びることはなかったが、
ショーは、みずみずしい生の一瞬や、ほろ苦い日々の思いを紡ぎ、
味わい深い物語を書く作家だった。
常盤新平の訳したアーウィン・ショーを、久しぶりに読んでみようと思う。
10月はたそがれの国 [文学]
旅行の計画を立てていた。
もろもろの手配を済ませた時、家内が足の指を骨折した。
庭の暗がりで敷石につまづいたのだ。
完治には3週間ぐらいかかるらしい。
旅行はすべてキャンセル。
古い本を持って少し遠くにある珈琲店に行く。
ここは、かつて映画館があった場所で、店内は広く中庭に面したテラス席がある。
映画館だった頃の面影はないが、なんとなく懐かしい。
少し肌寒いが、テラス席で珈琲を注文し、
レイ・ブラッドベリの短編集「10月はたそがれの国」を読む。
読み進むうちに、正体不明の何かが、僕を「たそがれの国」へと誘い込んでくる。
ブラッドベリ作品特有の不思議な感覚だ。
この危うい感じが、どこか快感であり、奇妙なことに充実感さえ感じる。
ためらうこともなく、僕はその抜け穴へ入っていく…
陽の光は足早に幕を下ろし、重たい宵の気配が座りこんできた。
惑いの中で、いつしか僕は「たそれがの国」の住人になっていた。
もろもろの手配を済ませた時、家内が足の指を骨折した。
庭の暗がりで敷石につまづいたのだ。
完治には3週間ぐらいかかるらしい。
旅行はすべてキャンセル。
古い本を持って少し遠くにある珈琲店に行く。
ここは、かつて映画館があった場所で、店内は広く中庭に面したテラス席がある。
映画館だった頃の面影はないが、なんとなく懐かしい。
少し肌寒いが、テラス席で珈琲を注文し、
レイ・ブラッドベリの短編集「10月はたそがれの国」を読む。
読み進むうちに、正体不明の何かが、僕を「たそがれの国」へと誘い込んでくる。
ブラッドベリ作品特有の不思議な感覚だ。
この危うい感じが、どこか快感であり、奇妙なことに充実感さえ感じる。
ためらうこともなく、僕はその抜け穴へ入っていく…
陽の光は足早に幕を下ろし、重たい宵の気配が座りこんできた。
惑いの中で、いつしか僕は「たそれがの国」の住人になっていた。